中国針灸治療:バセドウ病・男性不妊症・針灸適応症全般
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何教授の論文摘要集
摘要集2
 題名
【針刺による甲状腺機能亢進症患者の血清TSH受容体抗体活性への影響およびその臨床的意義】(1990年)
 摘要
0、研究対象・治療過程・治療効果判定基準
研究対象;84例の甲亢患者で男10例、女74例。平均年令32.5才、平均病歴3.4年。
 治療過程;入院患者は毎日一回、外来患者は隔日に一回針治療を行い、50回の後に血清を採取して治療前と比較する。
 治療効果判定基準;
 ・制御:血清T4、T3含有量が正常に回復。症状は基本的に消失。甲亢治療効果積分<5。
 ・有効:血清T4、T3含有量が治療前より30%以上下降。症状は明らかに改善。甲亢治療効果積分は5〜15。
 ・無効:血清T4、T3含有量が治療前より下降率が30%に満たない。又は反対に含有量は増加する。症状の改善がない。甲亢治療効果積分>15。

1、治療前後の血清TBII活性、TSH、T4、T3含有量の変化および相関関係について
 表1は、治療前の血清TBII活性およびT4、T3含有量はみな正常値より高く、針刺1クール(50回)後のTBII活性およびT4、T3含有量は顕著に下降しTSH含有量は上昇していることを示している(すべてp<0.001)。治療前のTBIIとTSHの間の変化にはハッキリとした相関はなく(r=-0.0081,p>0.05);T4、T3との間には顕著な正相関が現れる、つまりTBII活性が高くなればT4、T3含有量も高くなる(TBIIとT4:r=0.3747,p<0.01;TBIIとT3:r=0.3644,p<0.01)。治療後の血清TBIIとTSHの間の変化には顕著な負相関を呈しており、TBII活性が下降すればTSH含有量は上昇する(r=-0.2257,p>0.05);T4、T3との間には顕著な正相関が現れ、TBII活性が下降すればT4、T3含有量も下がる(TBIIとT4:r=0.3672,p<0.001;TBIIとT3;r=0.4203,p<0.001)。

例数

TBII(u/L)

TSH(μu/ml)

T4(ng/ml)

T3(ng/ml)

治療前

84

144.97±14.45

2.24±0.21

221.49±5.55

4.20±0.20

治療後

84

57.61±9.15*

5.44±0.50*
161.45±7.98*

2.92±0.22*
表1 治療前後の血清TBII活性、TSH、T4、T3含有量変化
(注):*は治療前後でP<0.001を示している。
正常値;TBII活性:0〜10(u/L)、TSH:<9.1(μu/ml)、T4:50〜140(ng/ml)、T3:0.5〜2.4(ng/ml)


2、臨床で異なった治療効果を得た患者の血清TBII活性変化の比較
 本論文の治療効果判定基準を根拠にして、84例患者の針刺1クールでは症状制御者は33例(39.29%)、有効者は21例(25.0%)、無効者は30例(35.71%)、総有効率は64.29%であった。図1は、治療後異なった治療効果を得た患者間の血清TBII活性変化には非常に顕著な差異があることを示している。症状を制御した者の活性は最低であり、かつ半数以上がすでに陰性となった。有効者はこれに次ぎ、無効者はさらにこれに次ぐ。
さらに分析を進めると、針刺後血清T4、T3含有量が未だにハッキリと下降していない無効患者でも、そのTBII活性には統計学的な意義を持った低下があることを表している(p<0.001)。
図1
図1.臨床上異なった治療効果患者の血清TBII活性を治療前後で比較

3、異なった治療過程間の血清TBII活性変化と治療効果の関係
 図2は、針刺を1クール経過した者の血清TBII活性は非常にハッキリと下降(p<0.001);連続して2クール経過した者の活性は更に低くなり(p<0.001);連続3クール経過した者の活性変化は2クールでの水準を基本的に維持していることを示している。
これに相応する臨床での治療効果はTBII活性の低下に従い次第に高くなる。
図2
図2.各治療行程間の血清TBII活性変化と臨床治療効果との関係

4、再発率と治療後血清TBIIとの定性的関係
 表2は、治療後病状が制御された33例の者を1年間針刺を停止したら、その中の陰性に変わった17例の内の2例が再発(11.76%)、16例の陽性者の内10例が再発(62.50%)したことを示している。治療後の血清TBII陰性者と陽性者の間の再発率には顕著な差異がある(X2=7.107,p<0.01)。

血清TBII

治療後

陰性17例

陽性16例

合計33例

制御
15(88.%) 6(37.5%) 21(63.6%)

再発

2(11.76%)
10(62.5%) 12(36.3%)
表2 再発率と治療後血清TBIIとの定性的関係

 臨床的意義
 針治療によって、血清TBII活性を消去あるいは低下させて甲状腺細胞への病理的刺激を除去しそして血清甲状腺ホルモン含有量を低下させ、甲状腺機能を正常に回復させることができた。
訳者解説
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)については不明な所が多いけれども、自己免疫異常により甲状腺ホルモンの過剰分泌が起こる疾患である。この過剰分泌を引き起こすものがTRAb(TSH受容体抗体;thyrotropin receptor antibody)と呼ばれ,測定方法の違いによって名称も異なり、放射受容体分析測定ではTBII(TSH結合阻害免疫グロブリン;TSH binding inhibiting immunoglobulin)と呼ばれ本論文で測定対象となっているものである。つまりTBIIの活性度が高ければ甲状腺機能亢進も激しくなるのである。この論文解説に入る前に確認事項として、1983年と1984年に発表した何教授の論文では、針治療によって甲状腺機能亢進症患者の臨床症状がコントロールあるいは改善されれば、治療後の甲状腺ホルモン(T4,T3)含有量も低下し甲状腺機能が正常に回復すると発表している。要するに針治療して症状が改善された患者は、症状だけでなく血清甲状腺ホルモン含有量も正常または低下していることを定量的に証明したのである。
 さて、本論文の解説に入りましょう。甲状腺機能亢進症(以下、甲亢症)を診断するための検査データには、TSH(甲状腺刺激ホルモン)・T4(甲状腺ホルモンでサイロキシン)・T3(甲状腺ホルモンでトリヨードサイロニン)・TBII(TSH結合阻害免疫グロブリン)などがあります。本論文では甲亢症を引き起こす素因と言われているTBIIについて、針治療前後のTBII活性変化とその他の検査値や臨床症状との関係を述べているその内容は、
 ・針治療前後のTBII活性が下降すれば、T4,T3含有量も下降する。詳しい数値は表1を参照して下さい。臨床的には、治療前後の甲状腺機能亢進症状も改善すると言うことである。
 ・図1から、治療後の臨床症状が制御、有効、無効となったいずれの患者でも血清TBII活性は統計学的な意義を持った低下があり、図2ではさらに治療を続けると血清TBII活性はさらに低くなる。臨床症状は図2で分かるように、治療を続けると症状改善率は上昇する。
 ・表2から、症状が制御された患者が1年間針治療を止めた時の再発率を血清TBIIの陰性患者と陽性患者で調べた。陰性者の再発率は11.76%で陽性者の再発率は62.50%であった。したがって、症状が無くなっても血清TBIIが陽性ならば再発率が六割近いことが分かり、治療を終了させる指標になる。
 最後に、針治療の効果判定に臨床症状だけでなく、理化学的な検査結果も併せて知ることができ、甲亢症の針治療も有効な治療手段の一つであると理解していただけたことと思います。
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