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題名 |
【針刺したGraves眼病患者の血清による外眼筋ADCC作用抑制の観察】
(2000.2.20)
孫克興、魏建子、王 静、龍*火習。指導 何金森(上海中医薬大学)
※この論文は上海市教育委員会青年基金を受けて研究した結果です。
訳者注:かなり専門的な論文ですが、何を目的としてどんな結論が得られたか分るように努めました。
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目的 |
針治療がGraves' 眼病(以下、GOとする)の眼球突出や眼球運動障害に対して効果のあることは、臨床観察で明らかになった(摘要集3)。そこでGO患者の免疫抗体が外眼筋の細胞をどれだけ障害しているのか生化学的実験を通じて、針治療したGraves' 眼病患者の免疫調節作用を調べる。
方法
まずはじめに、現代医学ではGO患者の眼病損傷メカニズムについてどんなことが解明されているかを紹介します。
・患者の血清中には、外眼筋(眼球を動かす筋肉)細胞膜にぴったりな64kDa の大きさを持った蛋白抗体が存在しており、これはまた甲状腺抗原と免疫反応を起こしている[1]から、64kDa 蛋白は眼窩内免疫損傷過程に介入していると考えられる。
・その上、GO患者の血清中に存在する抗体は、外眼筋細胞に対して“細胞を媒介して細胞を障害する作用(ADCC)”を媒介しており[2]、このADCC 作用を分析した結果として眼窩内の繊維芽細胞や骨格筋細胞[3,4]そして球後組織から取り出したCD8+T 細胞に対して[5]、明かな損傷効果はないことが分かった。
・GO患者の血清にある抗外眼筋抗体(EMAb;外眼筋損傷を起こす抗体を抑える抗体) は、外眼筋ADCC 損傷過程において重要な位置を占めていることが示されている。
以上の内容を踏まえて、GO患者の血清を治療前と治療後(6ヶ月後)に採取して二通りの観察を行った。
【1】ADCCの観察
斜視で免疫疾患のない方の外科手術で摘出された外眼筋を、D-Hanks消化液に入れて筋肉組織を除去し、さらに繊維芽細胞を除くために培養させて筋肉細胞だけを採取する(細かい手順などは省略します)。
その筋肉細胞にGO患者の治療前後に採取した血清を加え、細胞が反応するようにリンパ球を加える。そこで患者の免疫抗体が筋肉細胞膜を破壊して放出されたLDH(乳酸脱水素酵素)の活性を測定する。
これがADCC作用の観察であり、その数値が低くなれば外眼筋損傷も低下しているといえる。
【2】抗外眼筋抗体(EMAb)の測定
GO患者の血清中には、外眼筋細胞を損傷させる抗体とイディオタイプの抗体(EMAb)があります。
そこで豚の外眼筋から膜蛋白を取り出し(細かい手順は省略)、患者の血清を加えてから後に、酵素抗体法によって発光を観測する。
酵素抗体法とは外眼筋抗体と結びつく抗ヒト Ig 抗体を加えると発光することを利用した観測法である。だから、発光程度が低ければ外眼筋抗体は抗外眼筋抗体(EMAb)と結びつき外眼筋損傷作用は低くなることを示している。
統計方法は、【1】【2】ともに一元配置分散分析を採用している。
結果
観察グループ:針刺T組はメルカゾール(15mg/日)と局所の針刺;針刺U組はメルカゾール(15mg/日)と局所+手足の針刺;対照組はメルカゾール(15mg/日)。
【1】ADCCの観察結果
グループ |
例数 |
治療前 |
治療後 |
針刺T組 |
18 |
14.1±5.4 |
8.6±3.6** |
針刺U組 |
18 |
15.3±5.8 |
7.0±2.2***♯ |
対照組 |
18 |
14.9±5.2 |
10.4±4.9* |
注:治療前との比較:*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001;対照組との比較:♯P<0.05
【2】抗外眼筋抗体(EMAb)の測定
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針刺・組(n=18) |
針刺・組(n=18) |
対照組(n=18) |
治療前 |
0.44±0.20 |
0.47±0.26 |
0.45±0.21 |
治療後 |
0.30±0.13*♯ |
0.19±0.07** |
0.36±0.14♯♯ |
注:針刺前との比較:*P<0.05、**P<0.001;針刺・組との比較:♯P<0.01、♯♯P<0.001
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討論
本研究は、治療終了後の各グループの血清媒介によるADCC作用は全て低下しており、治療後の針刺・組は対照組より低く、一方針刺・組の治療後は対照組と比較して顕著な差異はないことが判明した。針刺治療後のEMAbも同様で、針刺・組の下降程度は針刺・組よりも大きいことが示された。
そして患者の血清成分が誘発するADCC損傷過程はEMAbが媒介しているであろうと示せた。
局所と手足に針刺する(針刺・組)ことはGO患者の免疫状況を調節する作用を具えており、さらにはADCC作用の減弱を通して外眼筋損傷を軽減することを示している。
参考文献
[1]Hiromatsu Y.Fukazawa H.Guinard etal. A thyroid cytotoxic antibody that cross-reacts with an eye muscle cell surface antigen may be the cause of thyroid-associated ophthalmopathy. J Clin Endocrinol metab 1988;67:565
[2]Wang p w Hiromatsu Y,Laryea etal . Immunologically mediated cytotoxicity against human eye muscle cells in Graves' ophthalmopathy. J Clin Endocrinol metab 1986;63:316
[3]Hiromatsu Y,Fukuzawa H,Howj etal. Antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity against human eye muscle and orbital fibroblast in Graves'ophthalmopathy-roles of Class・ MHC antigen expression and γ-interferon action on effecter and target cells. Clin Exp Immunol 1987;70:597
[4] Kiljanski j,Wall JR. Is the ocular muscle cell a target of the immune system in endocrine ophthalmopathy? Proc Intl Arch Allergy Immunol 1995;106:204
[5]Grubeck-Loebenstein B,Trieb K,Sztankay etal.Retrobulbar T cells from patients with Graves' ophthalmopathy are CD8+ and specifically recognize autologous fibroblasts. J Clin Invest 1994;93:2738-2743
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